読書とか日記

読んだ/見たときの感想と日常です。

エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス 微ネタバレ

観てきました。私は好き。

 

空想しすぎるタイプの子どもの空想、横断歩道で白いところ以外を踏んだらサメに食われる、を複雑にしたみたいな割とレベルの低い妄想みたいなシーンの連続を、しかし見るに耐えるものにしているのが主役をうらぶれた自営業のアジア系中年女性に設定したセンス(と映像の完成度)。そのへんの判断はしっかり大人で今の社会を見ている。バランスの取り方に感心した。

 

映画だけ見ていたらおそらく取り入れにくいタイプの、目まぐるしい映像群も面白かった。モブサイコ100Ⅲのオープニングを作るときにTikTokなどの映像作品を意識したと制作陣が語っていたわけですが多分これもそう。それをハリウッドのメジャーな作品として最初にやったところが評価の高さの一つかなと思う。

展開のトリッキーさで途中まで持っていって飽きてきたな…と感じたあたりで二部に入って映像の更なるトリッキーさで保たせる。観客の心理が読めてるのも、悪い夢みたいな変な映像を具現化できるのも、中盤ものすごく雑な展開なのに細かい伏線回収はしていく気持ちよさがあるのもやはりプロの仕事という感じ。わけわからん話の前後をちゃんとわかる話で挟んで観客を安心させる構成も大人の手付き。

 

かなりふざけてる、ところどころ悪ふざけが過ぎるんだけど、でも嫌じゃなかったのは茶化してはいないと感じたから。夫婦の間に優しさがあって欲しい、とか。親から認めてもらえないと感じているとか、幸せではない中年女性同士がなぐさめあうこととかそういうものを見下してはいなくて、共感を持って扱っていると感じられたからです。

観客を舐めて「感動要素」を足してるわけじゃなくて多分真剣に各場面を必要だと思って撮ってるんだろう。主人公がアジア系女性なのも単に斬新さを狙っただけじゃなく社会の中で軽んじられる側の切実さがこの映画に必要な要素だと思ったからかも。

監督に騙されてそう感じてるなら騙すだけの技量があるということなので素直に負けておきます。

 

俳優さんたちの演技は素晴らしいです。二十年前ならジム・キャリーとかトム・ハンクスが主人公だったかもしれない映画の主役がミシェル・ヨーなところが「今」の映画として活きの良さになってる。それぞれアカデミー賞に値する演技でした。

 

でもなんでかわからないけど個人的に一番ぐっと来たのは、ストップモーションアニメであれが動いたところ。情報量の多いカットがワーッと積み重ねられていくこの映画の、あの、妙に素朴なあれがさあ。あそこ良かったよ。

 

このストーリーなら90分くらいだとさらに良かったかも…という気持ちはありつつ見終わったあと何故か爽快感があって、遊園地のアトラクション的な味わいでなんか面白かったです。

 

注意点としてケン・ローチ的なものを期待していくとがっかりすると思います、SF作家のラファティがお好きならおすすめ。シンプルに娯楽作品を堪能したいならRRRのほうが満足度高いんじゃないかなーと思います、ご参考まで。

 

個人的には楽しかったです。